ハイブリッド月配列

ハイブリッド月配列は、月配列をベースに行段の要素と、キー共有機構を追加したハイブリッド配列です。
キー共有等、他の配列ではあまり見られないアイデアが組み込まれていますが、覚えるのは比較的簡単な方です。
スペック的はカナ一字を出すのに必要な平均打鍵数は1.25とトップクラスと言って良いかと思います。


【キー共有】
キー共有は、複数のキーの意味を一つのキーに共有させるものです。例えば「、(d)」はいわゆる左シフトを兼ねています。これは「、」を入力した後は通常はスペースなどを押して変換モードに移行するところであるので、続けてカナを打つ場合には、他の役割に代えることが出来るからです。
同様に、例えば「う」を打った後には「ゃゅょ」を打つことは無いので、「うゃ」という入力には「ちゃ」と言う別の意味を割り当てています。
一見かなり、複雑なようですが、「ち」は「右シフト+う」と配置していますので「ちゃ」は「右シフト」を省略しただけという形になります。もちろん「右シフト+う+ゃ」でも「ちゃ」は出ます。

このキー共有の導入によって、いままで月系配列では、どうしても指の上下移動が多かったり、拗音の入力が多打鍵になったり奇っ怪な配置になったりしていた問題を解消しています。
ハイブリッド月配列では「ふぇ(ey)」「ヴァ(r/)」なども拗音系はすべて2打で出るようになっております。


【ハイブリッド】
カナ配列と行段配列の両方の特徴を有しているハイブリッド配列です。
行段的キー配置は特に使用頻度の低いBZP行に適用してあり、これによって清濁異置を覚えるときの難所を簡単にクリアできるようになっています。また、キー共有との組み合わせも含めると「BZP」→「あいうえおゃぃゅぇょ」がすべて行段配置となっていますので簡単に指が覚えてくれます。もちろん「あいうえおゃぃゅぇょ」は単体で「あいうえおゃぃゅぇょ」を打つときと同じキーです。また「FVWL」については「ゃぃゅぇょ」を第二の「AIUEO」代わりに入力する形になっています。ちょっと微妙なところですが、試してみれば案外簡単に指が覚えてくれます。なお、「ぱ」はP段で最頻ですのでabjシステムで優先されるようになっています。これによって従来のかな配列を覚えるときの難所である「ぱ行」「ぁ行」を簡単に習得できます。

アルペジオ打鍵】
表面の配列は「てた」「った」「なに」「なの」「です」等の頻出2モーラが同段片手のいわゆるアルペジオ打鍵で入力できるように注意が払ってあり、手の上下移動が最小となるように配慮してあります。また「した」「して」も「FE」「FW」とやや、手をハの字に置いたときに打ちやすく配置しています。その代わりに指が届きにくい「y」には「ぇ」を配置するなどしています。


【その他】
その他、「づぢ」は例外として「づ(k3)」「ぢ(d8)」の打鍵で出るようになっています。それほど深い意味は無いのですが、他の月配列と比べて中指の負担が軽めなのでこのようにしました。
また、「ー」は「カタカナひらがな」キーでも出せるようになっています。


実用試験としておおよそ現在の形に固まってから3年間、仕事の特許文書と趣味のラノベ風文章の入力で使い続けて納得のいくものになっています。よろしかったら試してみてください。

そうそう三点リーダ「……」はEsc。「――」ダーシュはShift+Escで出るようになっています。なんでEscなのですかね。


【ダウンロード】
https://drive.google.com/file/d/0Bwr_MDdxot9tcjB4VC12ejUyb1k/view?usp=sharing
nodokaファイルですが、拡張子を変えればmayuでも動くはずです(中のインクルード文の拡張子も)。ひょっとしたらmayuにはないオプションなどを無効にする必要があるかもしれません。
このスクリプトでは「か」を長押しすると「から」が出るとか長押し系の仕掛けがいくつか施されていますが、結局あまり使わないのでどうしたものかと思っています。そのうちAutoHotkeyなどもう少しメジャーなキーバインドソフトに移植しようかなと思っていたりもします。


【開発経緯】
原理的には最強そうな気配のしたabj配列ですが、abj配列は母音を補う必要がある場合と無い場合の切り分けを脳内で行うのが非常に難しく、どうしてもすらすら打てるようにはなりませんでした。ですので、常用するのを断念しました。母音省略システムはやはり無理があったのだと思います。しかし、abj配列の作成からはよいアイデアもいくつかうまれました。

キー共有は、abj配列を作った頃に導入したものですが、思いの外効果的でしたので、これを使って月2-263を改良できないかというのが最初です。清濁分置は入力効率を上げるのには不可欠であるのと、ハイブリッドと相性が良いので導入しました。

昔に作ったハイブリッド配列は、行段がベースで、頻出カナは専用のキーを置くという発想でしたが、これではどうしても重複によりキーに無駄が出てしまうと言う欠点がありました。一方、今回のハイブリッド月は頻度の低い行に限って行段入力とすることによってキーの無駄を無くす構造になっています。

当初はシフトは「、。」の二つのみで、さらに無変換、変換キーに「いん」を割り当てていました。これも無変換、変換キーに字を割り当てと指のつながりが格段に良くなる上に打鍵効率も3%程度向上することがことがわかっていたからです。しかし、「いん」は「たい」「たん」などと打鍵の流れの後に入ることが多く、また、続いてスペースを押すことが多いことからなかなかしっくりとこなくあまりうまくいきませんでした。
それと、無変換、変換キーは他の用途にも使いたく、カナ入力には使いたくないというのがありました。
そこで、原則として三段のみを使う月配列をベースに作業を始めました。打鍵効率的にはシフトは「、。」の二つのみの方が優秀でしたが、シフト面の同手キーを出来るだけ排除したかったので、考えた末にシフトは三つにしました。無変換、変換キーの不使用と3シフトにしたことにより打鍵効率は5%ほど悪化しています。

3シフトにしたもう一つの理由は、「BZP+A」行の行段入力の起点が全部で4つ必要で、頻度の低いPは僻地に置くとしても「BZA」の3つはそれなりの場所に置く必要があったからです。

その制約の中でも、打鍵効率でabjを越えるのにいろいろ考えまして、拗音についてもキー共有が有効だということに思い至りました。これは、打鍵をスムーズにするためにも、1モーラ3打鍵は出来るだけ排除したかったので一つのブレークスルーでした。ただ、「ゃゅょ」の配置はだいぶ悩みました。

それからほぼ1年ほどかけて配置を微調整しました。拗音についてもキー共有を使っているので配置の自由度は割と少ないので、表面と拗音を発動させるイ段の配置には苦心しました。特に打鍵効率の観点からは「き」は表に配置した方が良いのですが、なかなかこれというポジションが見つからず結局シフト面に送ることになりました。

それから、2年ほど使ってから「ぃ」を8に送りました。よく考えればシフト面は数字キーを使っても良いので、それを考えたら2シフト配列にもできそうです。しかし、2年使いこんでだいぶ手になじんだことと、2シフト配列とすると「き」を表面に出すことになりキー共有の利点が減ること、中指の負担が重すぎる等を勘定して見送ることとしました。


【スペック】
なんとなく作ったスペック表は以下の通りです。

打鍵効率 負荷ポイント
通常ローマ字 1.77 2476
NICOLA 1.43 1806
月2-263 1.31 1803
飛鳥 1.44 1697
小梅(私家版) 1.35 1656
新下駄 1.27 1535
qwerty_hybrid注 1.28 1768
abj注 1.29 1595
ハイブリッド月 1.25 1601

(qwerty_hybridとabjは母音の補足に必要な打鍵が計算に入っていないから5%程悪化するはず)
データは今まで通り小梅配列さんのところの10万字サンプル(英字抜き)で集計しています。
この負荷ポイントというのは下の図のように、押しにくいキーに負荷計数を乗じたものです。人気の高い新下駄は本当に優秀で、私の直感に即した重み付けでも相当な高得点をたたき出します。
このハイブリッド月の負荷ポイントが劣るのは、上段下段でのアルペジオ打鍵を重視したためです。

試験的に作成したハイブリッド月の無変換、変換キー使用の2シフトバージョンは打鍵効率1.21、負荷ポイント1520くらいですので、この辺が現状の理論で到達できる限界かと思います。とはいえこのポイントは人差し指と中指を酷使させれば向上するものですので、実用上はこんなものかなと思います。

なお、覚えやすさ、習熟の容易さですが、一般的には難しいとされる清濁分置ではありますが、ハイブリッドの導入により、月2-263と同等程度と考えています。特に清濁同置配列の泣き所であるパ行ぁ行も覚えやすいのは大きいです。

指が覚える習熟についても、この拗音シフトの一貫性は非常に良好で、従来の月Ux等で見られる拗音を比較的規則正しく並べている拗音シフト系配列と比べても、歴然とした差があります。いわゆる拗音シフトフル装備の配列にしては現状一番の覚えやすさと考えています。

長所

前置シフトにより流れるように打鍵が出来る。
ハイブリッドにより低頻度文字の配置を覚える必要が無い。
キー共有によって前置シフト配列の中では群を抜いた打鍵効率。
全ての拗音が2打で出力されるスムーズさ。
全ての拗音が一貫した運指で入力できるので指が覚えやすい。
同時打鍵不要。
アルペジオ打鍵の重視。

短所

無変換、変換キーを使わないのはもったいない。
2シフトに収まらなかったのか。
実装がnodoka。
理屈が難しい。


では、よろしかったら試して見るなり、配列の改良のネタにするなりしていただければと思います。質問などはtwitterが早い気がします。