ハイブリッド月配列の追記

現状、配列作者として避けて通れないベンチマークは月2-263と新下駄かと思いますが、これらをご存じのものとして、配列の性能向上に使えそうなネタを解説します。


ハイブリッド月配列は月2-263配列程度の習熟難易度で新下駄配列程度の効率を達成した前置シフト配列です。わりと自信作です。


【シフトキーと句読点の共有】
『キー共有』と呼んでいますが、この、2打目の内容によって、1打目の文字をキャンセルして他のものに書き換えるというテクニックです。
ここでは、シフトキーと句読点の共有について説明します。
ハイブリッド月では、句読点を打つと句読点が出力されますが、さらに他のキーを打つと句読点を削除されて、シフト面のカナが出力されます。これによって、シフトキーと句読点を同じキーに配置でき、ハイブリッド月は表面のキーを3キー分節約できています。


新下駄の打鍵効率の源泉はどこかというと、表面にシフトキーが無いので、中段中指の特等席に「か」「い」の最重要文字を配置できることだと理解しています。表面が2キー多いと言い換えても良いです。これによって3%ほど打鍵効率に差が出ると勝手に見積もっています。


かといって新下駄の同時押しは誤打鍵のもとであったり実装を選ぶという短所がありますから、できれば避けたいという要求も、未だに月系配列をいじっている人々が多いことからわかります。


私個人としては、同時打鍵のために一瞬2倍の力が必要になるのが苦手で断念しました。


前置シフトで、シフトキーが邪魔問題を(ある程度)克服するには、やはりシフトキーに何らかの方法で文字キーを割り当てる必要がありまして、例えばSandS的な手法も考えられます。しかし、SandSでは結局同時押しと同じです。


そこで、いろいろ考えた結果、シフトキーは句読点と兼用させても問題ないというところに思い至りました。句読点打った後は変換なり、Enter押してそのまま広がなのまま確定すること通常かと思います。ですので、その後に他のカナを打ったときには句読点を取り消しても問題が無いはずです。


これは、わりと便利な着想でして月2-263のシフトキーに句読点を配置して、元々の句読点の場所に適当な文字をおいても月2-263の効率は直ちに改善します。


この『キー共有』ですが、2打目の内容によって、1打目の文字をキャンセルして他のものに書き換えるというテクニックはいろいろ便利です。


【清濁分置と行段ハイブリッド】
ハイブリッド月は清濁分置ではありますが行段ハイブリッドによって簡単に使いこなせるようになっています。特に、拗音シフトも行段になっていますので、複雑な配列にありがちななかなか最後のひっかかりが取れないと言うことがありません。


清濁分置を選んだ理由は、清濁分置の方が行段ハイブリッドと相性が良いからです。ハイブリッド月ではカナのBZP行とカタカナ語向けのFVWL行を行段にしているわけですが、BZP行はどれも濁音半濁音で、清濁同置なら別に行段ハイブリッドを導入する必要がなくなります。


だったら、清濁同置でも良いような気がしますが、清濁同置では過去に作ったabj配列などのパフォーマンスを超えられそうも無く、パフォーマンスでは清濁分置が有利なのは明らかですので、清濁分置としました。


【習熟難易度】
配列の習熟難易度は諸説あるわけですが、個人的には、例えば繰り返し(例えば100回)打鍵したキーは指が覚えられる説を信じています。
単に難易度がキーの個数に比例するのであれば、清濁同置なら55キー(45+10パぁ行)と清濁分置なら75キー(45+20+10パぁ行)、拗音シフトフル装備で106(75+21拗音+15FVW行)キーで拗音シフトフル装備でも清濁同置の倍は習熟に時間がかからないはずですが、とてもとてももっと時間がかかるのは皆さんの実感しているところかと思います。
これは使用頻度の低いキーを、使う機会が少ないだけになかなか覚えられないからです。実際のところは、出現頻度の低いキーもふくめて全部100打鍵して、全キーフルコンプして初めて習得完了と言ったところかと思います。また、割と清濁同置配列でもパぁ行が僻地に適当に並べられているケースが多く、パぁ行を覚えるのにやたらめったら時間のかかることもあります。
ですので、出現頻度の低いキーを行段にして覚えやすくすると言うことにはキー数の削減以上にメリットがあると信じています。
なお、ハイブリッド月のキー個数は64(45+2パぁ行+10(がだ行)+2(ばざ)行+3FVW行+ぃぇ)です。


そうですね。月2-263と同等というのは少し大げさかもしれませんが、ちょっと覚える気がしない「ウィ」とかもハイブリッド月では簡単に習得できますので悪くないと思います。


【拗音シフト】
ハイブリッド月は拗音シフトをつくるのに、この『キー共有』と『ハイブリッド』の両方のテクニックを併用しています。
拗音は出現頻度が2.5%程度とたかがしれていますので、従来は拗音シフトを導入しても手間の割にあまり効果が無いというのが実情かと思います。
まずは、3打叩いていいなら特に難しい工夫をしなくてもたいていの配列で拗音は打てますので、2打で拗音が打てることが拗音シフト導入の条件になります。入力の流れを阻害しないためにも1モーラ2打鍵以内というのはそれなりに効果があると思います。
この点、新下駄はシフトキーを増やすことによって2打拗音を達成しています。
しかし、月系配列では拗音シフトを作ると、独立したシフトキーをわざわざもうける必要があって、表面にそんな余裕がないのが通常ですので、今までの月系配列での拗音シフトはいまいちな結果になってきたかと思います。


さて、ハイブリッド月では『キー共有』を利用した後置シフトで2打で拗音が打てるようになっています。
一打目は、表面シフト面にかかわらず、拗音の起点になるカナを叩いて、それから「ゃゅょ」のキーを叩くことになります。「ちゃ」で言えば、「う(ち)(ぶ)(ず)」キーを叩いてから「ゃ」を叩くと「ちゃ」が出力されます。「う-ち-ぶ-ず」の中で「ゃゅょ」をつなげられるのが「ち」だけですので、これが選択される形になります。


このテクニックによって、拗音シフトを使用しているという感覚を持たずに拗音が打てますので、使用頻度の低い拗音も気持ちよく打鍵できるかと思います。
また、「ちぇ」「フィ」などにも対応するために「ゃゅょ」キーの他に「ぃぇ」キーを設けました。


ただ、この後置シフト拗音は、拗音の起点になる「き」なり「し」なりイ段のカナを表面シフト面通して一つのキーに一つしか配置できないという制約があります。実際には、普通の拗音の他にも「ヴァ」「ウァ」「ファ」と単体での「ぁ」ついでに「デュ」の入力にも対応する必要があるので、イ段はかなり注意を払って配置することになりました。
また、これにより『キー共有』を利用した拗音シフトは「き」「ぎ」を同じキーに配置できないので清濁分置になります。
後置シフトのメリットは、2打で拗音が打てると言うほかにも、行段入力になるので、拗音シフトのキー配置を覚える必要が無いと言うところにもあります。確かに、たいていの配列では拗音が規則正しく並んではいるのですが、それでも記憶コストはかかりますし、さらには指がスラスラ打てるようになるには、やはりそれなりの修練が必要になるからです。


ところで、GZP行は「あいうえお」の位置と行段の母音「AIUEO」を同じキーにしているのですが、FVWL行は違います。FVWL行の母音は「ゃぃゅぇょ」になっていて、ちょっとわかりにくいです。拗音との関係で「ふぁふゅふぉ」は割とすんなりと打鍵できるかと思いますが「ふぇふぃ」はちょっと戸惑うかも知れません。
これは、まずは「ふぇ」について「ぇ」に専用キーをもうけています。導入の経緯は「ちぇ」を打つための「ぇ」キーが「ゃゅょ」以外にどうしても必要で、ここで「ぇ」キーがあるなら「ふぇ」も「ヴェ」も同じキーに割り当てたところから来ています。なら「ぃ」キーも作ってしまおうと。微妙なところですが、行段的にはそんなに違和感はないかと思います。


この拗音の配置は同時押し系でも使えますので、どなたか試されてみるといいかと思います。
ただ、打鍵効率自体は1.5%くらいしか改善しませんので、打鍵効率のためと言うよりはスムーズな打鍵と覚えやすさのためと考えた方が良いと思います。


【長押し】
割とどうでも良い機能ですが、いわゆる下段から上段への跳躍などの悪運指に対応するために長押しで頻出2gramが出るようにしてあります。
例えば「の(o)」長押し→「ので(o.)」といった感じです。
まぁ、最初はクールなアイデアだと思ったのですが、キーの長押しって思ったよりも指に負担がかかるので結局はあまり活用していません。この辺はもう少し突き詰めても良いのですが、移植も大変ですので、ハイブリッド月の公式?仕様には含めないこととしました。
nodokaファイルには長押しがほとんどのキーに割り当ててあるのではありますがね。


【変換・無変換キー】
当初は変換・無変換キーを使う計画だったのですが、結局、使わないことにしました。
これは、変換・無変換キーはBSやCtrlその他のファンクションに使う人が多いからと、私自身もそうしているからです。
最初は、変換・無変換キーに「い」「ん」を割り当てるバージョンも作りました。確かに「い」「ん」につながる2gramが多いだけに配列設計が大いに楽になるのですが、日常的には連打するほどは私の親指が強くないことがわかりました。また、「○い」「○ん」と親指に収束する流れから、スペースを押すのもなかなかしっくりきませんでした。個人的には小梅配列も一度試しているのですが、そのときも親指に負荷がかかりすぎて挫折しましたので、思い切って変換・無変換キーはカナには使わないこととしました。


ただ、変換・無変換キーではないのですが「ー」だけは「カタカナひらがな」キーで出るようにしています。これは「ー」はやはりちょっと特別な打鍵感覚が欲しかったからです。なお「ー」のシフト面には「〜」が入っています。


【表面の配置について】
これは従来からあるキー配置のセオリーに従っているのでそれほど特別なことはないのですが、キーごとの打ちにくさ評価は以下のように重み付けをしていて、人差し指は下段、それ以外は上段に寄らせる、ややハの字構えに適した分布にしています。

_
15 15 12 15 20 _ 25 15 12 15 15 20
12 11 10 10 15 _ 15 10 10 11 12 20
20 20 15 12 25 _ 15 12 15 20 20 25
9.8% 8.7% 16.1% 15.3% _ _ _ 16.5% 15.4% 9.9% 7.8%

また、その関係で、同段アルペジオの他に人差し指中段→中指上段(F→E)のような流れを比較的好意的に判断することとしました。これによって頻出2モーラを叩きながら自然と上下段に移行できるようにしています。


【実用性】
実用性については、概ね配列が固まってから3年間使いこんで大きな不満点はありませんので、十分実用的かと思っています。特に理由が無い限りは普段の日本語入力は全てハイブリッド月で行っています。
一応ですが、私はプログラマ兼特許屋ですので、特許文書をこれでバリバリ打ち込んでいます。また、PBWと言うマイナーな趣味でラノベもどきの文章も打っています。総計すると三年で100万字は打っているはずですので、まぁ、十分にコンバットプルーフはされていると考えています。
いわゆる、脳に対する負荷は従来のAZIKなどの変則行段系と比べて軽いと実感しており、まさにしゃべるように打てていますので特に問題ないと思います。
(なお、私はローマ字入力は特に脳に負担と考えてはいません)


【そのほか】
『キー共有』ですが、現在は「う、BS、ち、ょ」的な出力で実装しているのですが、BSが一部のソフトを混乱させるようです。そこで、「う」を押した時点では何も出力せず、スペースなりEnterなり矢印なりカナ以外のキーを押したときに「う」が確定するような実装の方が、BSを出力しないで良いのではないのかと思っています。キーカスタマイズソフト次第ではあるのですけれどもね。


ところでハイブリッド月配列ってネーミングはどうかと思うんですよね。
最初は半月配列とかでいいかなと思っていたのですが、あまり風流ではないので、決まらないでいます。