「自炊の森」問題まとめ Q&A

議論が一段落したと思いますので、それを踏まえて私の見解をまとめてみました。


前提として「自炊の森」を

  • ユーザに電子的に複製させることを目的として
  • 著作物を複製に適した形態に裁断し店舗に置き
  • 自動複製機器(スキャナ)も同時に店舗に置く
  • ビジネス

とします。

  • Q1 「自炊の森」は非合法ではないのですか?

裁判所が判断するまでわかりません。著作権法の条文上は白に近いですが、日本の裁判所はいわゆる「カラオケ法理」等によって黒と判断することが多々あります。

  • Q2 条文上は白とはどういうことですか?

いわゆる「私的使用を目的とする複製(著30条)」に該当します。

第三十条 著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときはその使用する者が複製することができる。

  • Q3 今までの自炊は自分の本をスキャンするものですよね。そもそも自分が所有していない本をコピーするのは「私的」に当たらないのではないのですか?

いいえ、自分の所有していない著作物をコピーすることは合法です。これが禁止されたらテレビ番組を録画できなくなります。

  • Q4 条文には「家庭内」とあるのでお店でコピーするのはダメのではないのですか?

「家庭内」というのは「において使用することを目的とする」にかかっています。つまり個人的に使用(読む)ためのコピーのことを指します。ですのでコピーをどこで行うかは問題ではありません。コンビニでコピーすることが合法なのもこれによります。
 現状でも漫画喫茶にコピーが置いてあることがありますが、これも合法とされています。

三十条にはいくつかの例外規定がありますが、重要な例外にお店での「自動複製機器」を用いた複製が禁止されているというものがあります。ただややこしいことに、お店での「自動複製機器」を全て禁止すると、コンビニのコピー機も禁止されてしまうので「紙」をコピーする「自動複製機器」については例外の例外で合法になっています。

次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
第三十条一項 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製する場合

著作権法附則
(自動複製機器についての経過措置)
第五条の二  著作権法第三十条第一項第一号及び第百十九条第二項第二号の規定の適用については、当分の間、これらの規定に規定する自動複製機器には、専ら文書又は図画の複製に供するものを含まないものとする。

  • Q6 図書館と一緒ですね?

 図書館にあるユーザが操作するコピー機については「私的使用を目的とする複製(著30条)」なのか「図書館等における複製(著31条)」法学上の論点で決まっていません。「自炊の森」とは関係無いので忘れて下さい。

  • Q7 それでは合法なのですね

 わかりません。「カラオケ法理」があるからです。

  • Q8 カラオケ法理?

 簡潔にいうと
「業者の管理下で」客のやったことが「私的使用を目的とする複製(著30条)」でも業者にとっては私的使用を目的「にあたらない」から違法
 と言う理屈です。
 細かい要件を取り出して論じたいところですが、近年「カラオケ法理」は拡大解釈される一方なので裁判所がどのように判断するのか予想がつきにくいです。
 なお、何でもかんでもこの理屈を通すとネットサービスの多くがこれに抵触し違法となりますので現在は批判が多いです。

  • Q9 ならば黒なのか?

 去年(H22)の改正でダウンロードが違法化されたり、検索サービスが合法化されたり、著作権の影響する範囲が細かく修正されましたが「カラオケ法理」に関しては明文化されずにスルーされました。これが裁判所にどう影響するか不明です。
 なお、今現在(2011.1)カラオケ法理に関わる重要な事件(まねきTV訴訟)が最高裁で争われていますので、その結果によっても大きく変わりそうです。

  • Q10 つまりはどういうことよ

 店にある紙をスキャンできるサービスは条文上は合法ですが、裁判所の機嫌によっては違法とされる場合もあります。

  • Q11 出版社は動くのか?

わかりません。出版社には音楽映画ゲーム会社と異なり著作権がありません。ですので出版社には訴える権利がありません。この辺は電子書籍との関係で非常にややこしくなっており展開が読めません。

  • Q12 他に影響があるのか

 Kinko's、BOOKSCAN、漫画喫茶、図書館、裁断済み書籍の転売、各種ネットサービス、電子書籍教育機関などに幅広く影響が出ます。


個人的見解
 音楽映画業界に対しては裁判所は有利に判断しますが、ブックオフや漫画喫茶が合法とされたように書籍に関しては業界が敗北し続けています。
 これは書籍は教育と言論の根幹をなしており、規制によって生じる悪影響が大きいからであると思います。ネットを始め世間のことにうとい裁判官でも「これが違法なら裁判所で書証のスキャンも違法になりますよ」と言われればすぐにピンと来ます。
 これは例えば「見出し」をサイトに表示しニュース記事に直リンを貼った「読売オンライン見出し事件」ではライセンス料月1万円、差し止め不可と言う事実上の敗北を出版側がしました。
 H22改正でさりげなく「国立国会図書館における所蔵資料の電子化(31条2項)」が法制化されており、ここでも書籍に関しては特別な扱いを受けていると言って良いと思います。


さて、
自炊の森のサービスが「店内在庫書籍であれば、定価の40%(+消費税)の料金で1冊まるまるを電子化できる」と言う従量制であると言うことが明らかになりました。これはマンガ喫茶とは明らかに異なります。マンガ喫茶ではユーザーが手に取る書籍についてマンガ喫茶側は関知しませんが、自炊の森では一冊ごとに料金が発生するとのことですので、自炊の森がどの本がコピーされるのかを積極的に管理した上でユーザに渡しているので、これをもって実質的な貸与だと言われる余地が生じます。
 つまり「カラオケ法理」を争うまでもなく違法とされる可能性が高いです。


まぁ、どちらにせよ。まともな電子書籍が出たら終了するビジネスですので、裁判を待たずに終わる公算が高いと思います。


一応この辺の議論を参考にしました。
「自炊の森」問題 http://togetter.com/li/83973
「自炊の森」問題に関する専門家の見解 http://togetter.com/li/84045