フォークボールの投球方法

フォークボールの投球方法」と言うのは特許にならない例として教科書的に上げられる定番です。


しかし、その理由付けについては常々疑問に思っていました。


日本の特許法では、発明とは自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されており、「フォークボールの投球方法」は「技術的思想」でないものとして切られると言われています。


ところが「技術的思想」とは
「一定の目的を達成するための具体的手段であって、実際に利用でき、知識意図して伝達できるものをいい、個人の熟練によって得られる技能とは異なる」
とされています。


フォークボールの投球方法」は「知識意図して伝達できない、個人の熟練によって得られる技能」であるとされています。しかし、「フォークボールの投球方法」は野球の教本には投げ方が書いてありますし、練習すれば上手下手はともかくとして誰でもできるものです。個人の熟練と言う観点から行けば、職人の熟練が無いと使うのが難しいような「機械の組み立て方法」とかあります。(例えば、以前機械のベルトのテンションを適正値にするのにベルトを叩いてその音を聞いて調整すると言う技術があります。)こういうのは技能と言えなくもありませんが、工場のマニュアルにも載っていますので個人に限定されたものでは無いでしょう。教科書によっては人によって上手下手が出るからダメだ的な解説を添えている場合もありますが、別に普通の「高馬力エンジン」のような特許でもどのメーカが車を作るかによって性能は全然違うわけで、上手下手が根拠になるのはおかしいです。


熟練の技能の場合、例えば、金属の表面を触っただけで表面荒さがわかるとかそう言う感覚的なものが特許にならないというのはわかりますが、それは反復継続性や実施可能性が無いからです。少なくとも先輩技術者から「盗める=知識意図して伝達できる」ような技は特許の対象であってしかるべきであると思います。


前置きが長くなりましたが、こんなことを考えたのは
「音素索引多要素行列構造の英語と他言語の対訳辞書」
特願2003−154827号
知財高裁判決により特許査定となったからです。

綴りが分からなくても発音から単語を検索できる英語辞書を引く方法〜〜本願発明は,人間(本願発明に係る辞書の利用を想定した対象者を含む。)に自然に具えられた能力のうち,音声に対する認識能力,その中でも子音に対する識別能力が高いことに着目し,子音に対する高い識別能力という性質を利用して,正確な綴りを知らなくても英単語の意味を見いだせるという一定の効果を反復継続して実現する方法を提供するものであるから,自然法則の利用されている技術的思想の創作が課題解決の主要な手段として示されており,特許法2条1項所定の『発明』に該当するものと認められる。

平成20年(行ケ)10001号


そもそも従来より方法の発明として動物に対する手術方法等は認められていたわけで、機械でなく人間が主体的に実施する発明であったとしても特許が認められるものでした。それに対して、ビジネスモデル特許に限らず、トレーニング方法などは記載の加減によっては拒絶を受けていましたが「自然に具えられた能力に着目し〜〜一定の効果を反復継続して実現する方法」と言うのが一定の基準として認められるのであれば判断しやすいのではないのかと思います。


従来より「トレーニング方法」は拒絶されて「トレーニング機器」なら簡単に認められると言う実務でしたが、これの方向性が多少変わってきたのはないのかと思います。
また「トレーニング機器」であっても方法クレームと一緒にエイヤで拒絶されるのを避けることも出来そうです。
mp3圧縮アルゴリズムのような類も、人間の聴覚の性質を利用していますので、請求項の書き方によっては拒絶されていましたのでありがたいことです。


まぁ、「フォークボールの投球方法」の場合は「産業上利用できる」かどうかの問題ではあると思いますがね。